David Byrneの「American Utopia」。スパイク・リーが監督したドキュメンタリーだが単なるライブでもショーでもないアーティスティックなステージは必見の傑作である

 5月28日から日本でも公開が始まったデヴィッド・バーン(David Byrne)の「American Utopia」。American Utopiaをブロードウェイの劇場で披露したときのドキュメンタリー映画。監督はスパイク・リーである。

”ブロードウェイでのミュージカルのドキュメンタリー” みたいな紹介のされ方をしていたので最初は食指が伸びなかったのだが、あちこちから評判が聞こえてきたので六本木ヒルズで観てきた。


うむ、これは凄い。しばらく凄いという言葉以外出なかったので少し時間を置いてこの映画の体験を振り返ってみた。

背景的な話をすると、ドキュメンタリーの元になっているライブは2018年のソロアルバム「American Utopia」に伴うワールドツアーでのもの。
映画は2019年にニューヨークのハドソン劇場で行われたライブをフィーチャーしている。

内容はデヴィッド・バーンのソロライブ。曲はヘッズの旧い曲から新作、そしてカバーまで。

ライブ・コンサートではあるが、パフォーマンスアートでもあり、スパイク・リーの映像でもあり、でも一貫しているのはデヴィッド・バーンとスパイク・リーの世界に対すメッセージである。

音の部分で言えばヘッズ流のポリリズム溢れてクールに盛り上がるファンク感。これをパーカッション6名で担当していて、要するにリズム隊の分業化。これは目からウロコである。

また全員がステージ上で裸足でパフォーマンスをするのも凄い。ミュージシャンの余技でのパフォーマンスではなく、ちゃんとプロの訓練を受けたパフォーマーのよう。

ステージからアンプやエフェクターや配線といったものを取り除き、生身の人間だけを残したセンスもさすが。ちなみに肩にちょこっと乗った黒いチップ状のものは赤外線追跡装置。これでミュージシャンの場所を把握して正確にライティングできるのだそうだ。

そのようにテクノロジーは使っても最後はライティングやカメラワークといったセンス。前者はデヴィッド・バーン、後者はスパイク・リーのセンスだと思う。

バーンとラジカセ(のリズムマシン)から始まり歌舞伎の黒子のようなスタッフが少しつづセットを組み上げそれに合わせてメンバーが増えていった「ストップ・メイキング・センス」はジョナサン・デミじゃなくてデヴィッド・バーンのセンスだったのだなということが再確認できた。
この「American Utopia」も最初はデヴィッド・バーン一人で始まり、バックボーカル&パフォーミングの2人が加わり、さらにバンマスでもあるキーボードが加わりという流れで最終的にはメンバーが11人という大所帯になる。

バーンのMCもシニカルなユーモアのときもあれば、真摯な言葉を吐く時もあり、あぁこの人は誠実な人なんだなぁということがよく分かる。

ショーの最後は「Road to Nowhere」。どこへ行くかはわからないけど先へ進まなければと希望をもたせる感動的な曲だし、それを反映した真摯なパフォーマンスで終わる。

トランプの時代に意義を唱えるバーンとスパイク・リー。映画の最後はスパイク・リーの切実なメッセージ。 ”UTOPIA” が逆さ文字になっているのも彼らの切実な思いに違いない。

音と映像とそしてアーティスティックで斬新なステージ。全て味わえるこの映画、これは劇場で観なければいけないし、多くの人に観て感じて欲しい映画である。

ショーが終わって劇場を出て家路に着くデヴィッド・バーン、なんと自転車で帰宅。交通事故にだけは気をつけて欲しい。