エドガー・ライトが監督するSparksのドキュメンタリー「Sparks Brothers」。浮かび上がってくるのは勝者ではない普通の僕たちのための音楽を奏でるSparks

レオス・カラックスの「Annette」に続き、待望の待望のエドガー・ライトによるスパークス(Sparks)のドキュメンタリー「Sparks Brothers」の日本公開も始まった。

もう日本中がスパークスブームになっていて、ずっとファンだった奴、昔は聴いてた奴、なんか凄いって噂だけしか知らない奴までみんな押しかけて来るだろう、早く観なくちゃと思って土曜日の朝9時40分からの六本木ヒルズへ行きましたよ。

もう六本木ヒルズのTOHOシネマズの前は若い女性をはじめ凄い人だかり!

女の子をキャーキャー言わせていた頃のスパークスみたいだ! と思ったらなんかアイドル系邦画の客だったみたいだ。

実際Sparks Brothersの方は客が9人でした。久しぶりの1桁台。まぁ土曜日の朝9時だししょうがないか。


あまり知られていないSparksというバンドとロンとラッセルのメイル兄弟の、50年間の活動と25枚のアルバムをほぼ時系列に紹介しましょうという体をとっているが、まぁ要するにエドガー・ライトを始めとしたスパークスファンからのラブレターみたいなものだ。

基本は影響を受けたミュージシャンたちや一緒に音楽を創ってきた人たちへのインタビュー、それと当時の映像、そして肝心のメイル兄弟2人へのインタビュー。

面白いのはインタビューでの発言を説明する映像とか、地の部分に過去の映画からの引用を大量に打ち込んでいるところ。これは面白いやり方だろう。

僕は1974年に「キモノ・マイ・ハウス」を聴いて「プロパガンダ」をすぐ買ってというリアルタイム世代。「No.1 In Heaven」もリアルタイムで聴けたが、その後は輸入盤でも入荷が少ないのかなかなか新作をタイムリーに聴けないつらい時期も経験している。

たぶんそういうファン歴がある程度長い人には死ぬほど面白いし、何回観ても飽きない映画だろうと思う。

ただあまり思い入れがないような人だと変わった人たちの過去を振り返って面白いの? という反応になるんじゃないかと心配だ。


あとメイル兄弟の活動とその意味については映画を観てもらうとして、思わずへぇ〜ボタンを押したくなったことがいくつもある。

メイル兄弟はビートルズの公演を2回観ているそうで、そのうち1回はラス・ベガスでのコンサート。2人の住むLAから母親が「フィアット600 ムルティプラ」で送迎してくれた思い出を語っているのだけど・・・


「FIATムルティプラ」というと世界一醜いクルマ(でも名車)として有名だけど、初代にあたる「FIAT 600 ムルティプラ」というのは1950年代のこんなクルマなんですけど。

どうみても右がフロントに見えるけど、ハンドルがあるのは写真で左。やっぱりUglyなんですよ。60年代アメリカでこんなイタリア車を持ってるってどういうセンスの人なんだろう、しかもシングルマザー。Sparksの両親だけあって一般的なカリフォルニア人とはかなり違っていたのだろう。

クルマでいうと映画終盤でロン・メイルがクルマを運転するシーンがあって、それがなんとフォルクスワーゲンのタイプ181。VWのビートルをベースにした軍用車(キューベルワーゲンの後継車)の民生版。そのタイプ181を20年以上所有しているらしい。手放すことがあったら是非声を掛けて欲しい、買うから。

あとSparksとトッド・ラングレンに紹介したのはラッセルのガールフレンドのミス・クリスティーン。フランク・ザッパのプロデュースで有名なグルーピー集団GTO'sの人で、ザッパの「Hot Rats」のジャケット写真の人でもある。そんな彼女の元ボーイフレンドがトッドだったという縁で紹介したらしい。

またその話をGTO'sのミス・パメラが語っている。ミス・パメラは後にSilverheadなどのマイケル・デバレスと結婚して映画にはパメラ・デバレスといして登場している。


SparksをTVで観て驚いたジョン・レノンがリンゴに電話したという有名なエピソードがあり、その様子をクレイアニメで再現するシーンが出てくる。そのジョンの声を担当しているのがサイモン・ペッグ、リンゴはニック・フロストが担当している。エドガー・ライトのファンならニヤリとするところだろう。

それとSparksが渡英して人気を得たあたり、ライブの告知ポスターが何枚か映るのだが、その1枚にはフロントライナーとしてSparksが、前座としてQueenの文字が見える。そう、1974当時のクィーンはスパークスの前座だったのだ。前座のクィーンの映画があれだけヒットしたのだから、フロントライナーのスパークスの映画は当然それよりヒットするだろうな。

このドキュメンタリーでインタビューを受けてるミュージシャンはみんなスパークスの影響を受けているし、知らずに影響を受けてるミュージシャンも世界中には多いと思う。逆に言うとポップ・ミュージックをやっててスパークスを知らないというのはかなりマズい。

音楽面でいうと、時代と共にずっと変遷し代わり続けているスパークスだけど、彼らの創り出したものはいつも ”変わっている” で片付けられているのが非常に不満。結局スパークスこそがロックのメインストリームだったのだから。

青臭くて恥ずかしいけど、スパークスが歌い演奏している音楽は、決して勝者ではなかった、情けなくも平凡な日々を送る僕たちのための音楽。それってロックが始まってからずっと変わらないテーマじゃなかった? だからスパークスはずっと50年以上ロックのメインストリームにいるんだ。ということが伝わるドキュメンタリー映画がこの「Sparks Brothers」。

スパークスの絶対的なファンはもちろん、自分はなんでスパークスが好きなんだろうか再確認したい人など必見のドキュメンタリー映画である。

上映時間は2時間20分。ドキュメンタリーとしてはかなり長いがそんなことは全然気にならない。

見逃しているところもありそうなので、上映が終わる前にもう一度映画館に足を運んでみようと思う。


スパークスの原案をレオス・カラックスが映像化した「アネット」も公開されているので、まだ観てない人はそっちも観てみよう。ジャック・タチ、ティム・バートンとの映画プロジェクトが頓挫したスパークスが三度目の正直で実現させた映画である。