800ページ超という大冊だが、長くロペスさんの翻訳を手がけてきた翻訳者の手腕もありとても読み易く、まったくその長さを意識せず一気に読み終わってしまった。
一回読んで終わりではなく、これから先も手許に置いて一章、一節づつ読み返すことになると思う。
1948年生まれだから今年でちょうど60歳還暦を迎えたジェリー・ロペスがその半生を語ることで、サーフィンのソウルの部分を我々に伝えてくれる本である。
今はもう存在しなくなってしまったハワイの古き良き時代のコミュニティーから現在もなおアバンギャルドな存在であるトゥーインサーフィン、そしてスノーボーディングまで。ボクたちの知っているジェリー・ロペスから、これまら知られていなかった彼のお茶目な側面まで語られ飽きることがない。
しかし、サーフィンの神様とも言われ、チューブ滞在時間なら世界一とも思われるロペスさんが語るサーフィンの話の約半分は「ワイプアウトした」「波にぐちゃぐちゃにされて死ぬかと思った」「沖へ出るのが大変だった」「波がデカくて怖かった」(笑
なーんと、オレ達へなちょこサーファーと同じではないか。
もっとも同じワイプアウトにしても彼の場合は10フィートだ15フィートだという世界なのでレベルはまったく違うが。
なので同じように死の危険を語るにしても、本当に死に片足をひっかけつつも戻ってきた人が語る話なので、その重さも、そこから引き出される教訓もオレ達とはまったく異なる深いモノになっていて、それがこの著作の面白さの一つでもある。
ハワイの古くから伝わる文化や伝統がモダンになり世界に広がる過程のまさに中心に居た人物の半生記であるが、長く続く文化的伝統の継承者でありながらラジカルな変革者でもあった人物が、その文化をベースに世界とコミュニケートした記録としても受け取ることができる。読んでいてグッとくる瞬間が何度もあった。
サーフィンをよく知らない人の翻訳にありがちな固有名詞や基本的な用語のミスもないので、サーフィンをしている人にもすんなり読めるし、サーフィンを知らない人でもある道を極めた人の半生記として読んでもらえるのではないか。
帯にはジェリー特有の大文字だけの手書き文字で「SURF TO SURF TOMORROW, NEVER SURF LIKE THERE'S NO TOMORROW」と"Aloha Gerry Lopez"と印刷されている。
手書きでまるごと一冊読んでみたい気もする。
ちなみに、ジェリー・ロペスの母親は日系移民(というか完全に日本人)。
飛行機の中では正座して瞑想し、お母さんの作ってくれたおにぎりを食べるという一面もある人である。
2008/12/30